移住と暮らし

石垣島で車は必要か|単身寮暮らしのお金と距離の無理しない線引き

2025年11月18日

湿った風が寮の外廊下を抜けていく朝、階段の手すりには前の晩の雨がまだ細く残っていた。職場までは自転車で片道20〜30分、角を曲がった先には歩いて行けるスーパーと、その近くにドラッグストアがある。石垣島で単身暮らしを始めたころ、「石垣島で車は本当に必要なのか」を何度も考えたが、結局は決めきれないまま、その暮らしを続けていた。

夕焼け空の下でアーチ橋と森が横に伸びる石垣島の風景
夕暮れの橋のむこうには、徒歩や自転車、車で伸びていく毎日の動線があった。

車は家計と徒歩圏で決めておく

どれだけ走るかよりも、「毎月いくらまで車に回しても暮らしが崩れないか」を先に決めておくと、所有でも「持たない選択」でも迷い方が少し穏やかになる――それが、寮暮らしで試行錯誤したあとに残った結論だった。

この記事でわかること:

  • 単身で石垣島に住むとき、車に回してよいお金の上限額を手取りからおおまかに決める手順
  • 徒歩圏と「車がないときつい場所」を分けて考え、レンタカーや知人の車を無理なく頼る考え方
  • 毎月の移動メモから、車を持つかどうかを自分なりに整理する視点

石垣島の単身寮暮らしと、徒歩圏で回す毎日の買い物

私が住んでいた単身寮は、市街地から少しだけ離れた場所にあった。窓を開けても海は見えないが、湿った風と遠くの波音、夜になるとどこかの庭先から聞こえる三線の音で、「ここは島だったな」と実感したものだ。朝から空気はぬるく、夏は特に最低気温と最高気温の差があまりない。日が高くなると、数分歩いただけでTシャツが肌にはりつく。

ありがたかったのは、生活最低限の店が徒歩圏にそろっていたことだ。寮から数分歩けばスーパーがあり、その近くにドラッグストアがある。飲み物や日用品、簡単な総菜くらいなら、自転車どころか歩きだけでどうにかなる距離感だった。買い物のためにタクシーやバスに乗ることは、ほとんどなかった。

石垣の壁沿いの細い道に咲いた小さなピンクの花
寮から職場へ向かう途中の道端でも、こうした景色を見ながら徒歩圏の暮らしを組み立てていた。

生活の「基本セット」は徒歩圏で足りても、少し離れた店や病院までを想像すると、一気に荷物と体力の心配が増える。ホームセンターや大きな病院、家電量販店のような場所は、徒歩だけではきびしい。歩けない距離ではないにせよ、炎天下や雨の日に往復することを考えると、心がくじける。そういう場所に用ができたときに初めて、「やっぱり車があったほうがいいな」という気持ちが顔を出した。

暮らしが崩れやすい瞬間と、車が欲しくなる場面

暮らしが崩れやすいのは、「徒歩圏ではない場所」に用事が重なったときだった。家具や大きな収納用品を買いたいとき、病院をはしごしなければならないとき、雨の日に荷物を抱えて動くとき。徒歩だけでは現実的ではなく、自転車だけでも心もとない場面が、年に何度かは訪れる。

あの日々は、「車がなくても暮らせるけれど、あったらどれだけ楽なんだろう」と、心のどこかでいつも計算していた気がする。

正直な話、車がないならないなりに暮らしていくしかないと、そのころの私は感じていた。ホームセンターで大きな棚を買いたい日は、同僚にお願いして車を出してもらう。家具の購入そのものを、「誰かに頼める日」まで先延ばしにすることもあった。レンタカーは便利だが、すぐに借りられないことも多く、「どうしてもこの日に動きたい」というタイミングと、空き状況がかみ合わないこともある。

車が手に入るなら車がいちばん楽だ、という感覚はずっとあった。休みのたびに中古車屋の前を通っては、貼り出された価格をなんとなく眺める。知り合いに「もし手放す予定があったら声をかけてほしい」と打診したこともある。それでもすぐに決めなかったのは、手取りから見た毎月の生活費の余裕を考えたときに、「今はまだない前提で暮らしを組み立てたほうが落ち着く」と感じていたからだ。

無理しない判断のための小さな工夫

そこで役に立ったのは、一気に解決する裏ワザではなく、生活の前提を少しずつ決めておくことだった。

実際に「車なしで歩きながら生活圏を決める」一週間の回り方は、移住下見ガイドとして別の記事にまとめている。

移住下見ガイド
夕暮れの石垣島の海沿いの歩道と椰子の木。雨上がりの路面に空の色が反射している。
石垣島 地域調査の下見1週間|朝・昼・夕で導線を確かめる

石垣島への移住前に7日間地域を歩き、朝・昼・夕の徒歩時間の最長値から、自分に合う範囲を少しずつ無理なく静かに選んでいく。

  • まず、「車に回してもよいお金の枠」を手取りから大まかに決めた。家賃・光熱費・通信費・食費・最低限の貯金を書き出し、そのうえで「この範囲を越えるなら、今は車を買わない」とあらかじめ決めておいた。私は目安として、手取りの1割前後に収まるくらいを上限にしていた。生活費全体が手取りの7〜9割に収まるかを見る中で、その一部として車を置いていたイメージだ。これは当時の私にとって無理が出にくいと感じたラインであって、誰にとっても正解というわけではない。
  • 生活の設計も、「徒歩圏で完結する用事」と「車がないときつい用事」を分けて考えた。日々の買い物やちょっとした外食は徒歩圏で済ませ、ホームセンターや大きな病院に行く用事は、同僚や知人にお願いできる日や、レンタカーを事前に押さえられる日にまとめて入れる。
  • 移動のメモを簡単につけた。「今日はどこまで歩いたか」「どこでしんどくなったか」「車があれば楽だった場面はどこか」を1〜2行だけノートに残す。距離や時間をきっちり記録するわけではなく、「今日はさすがにきつかった」「今日は徒歩だけで十分だった」という感覚のほうを大事にした。あとからこのメモを見返すことで、「車を持つかどうか」を自分なりに整理しやすくなった。
  • 「どうしてものときに頼れる相手」を頭の中だけでなく紙にも書いた。同僚・知人・タクシー会社・レンタカー店。タクシーは普段の買い物では使わなかったが、「本当に動けない日」のために電話番号だけは控えておいた。いざというときの連絡先が手元にあるだけで、車を持たない期間の不安は少し和らぐ。
  • 原付や自転車だけで暮らしている人の話も聞いた。「雨の日は徹底的に予定を減らす」「荷物が多い日は買い物自体を別日に回す」など、その前提での工夫がいくつも出てきた。みんな「それしかないからそうしている」というだけで、我慢比べをしているわけではない。
海辺の道をスクーターで走る人物の後ろ姿
原付で島を走りながら暮らすスタイルも、石垣島ではごく現実的な選択肢のひとつだ。(写真:Pixabay / haydenggg)

車を1台所有すれば、保険や税金、車検や消耗品まで含めて、まとまったお金が毎月必要になる。その負担と、徒歩や自転車、たまのレンタカーや同僚の車に頼る生活とを並べてみて、「今の自分はどちらの重さなら受け止められるか」を考える時間は、決して無駄にはならなかった。

振り返りと、これからの暮らしの線引き

石垣島で車を買うかどうかは、単身であれば「どれくらい車に乗るか」よりも、家計にどれくらい余裕を残したいかと、どこまで自分の足で動き、どこから人やサービスに頼るかをどう組み合わせるかの問題だと、今の私は思っている。単身のあいだは「なくても何とかなる」側に寄せやすく、家族が増えるほど「ないと困る場面」が増えていく。

その後も私は石垣島で暮らし続け、結婚し娘が生まれた。家族が増えると、車の意味はまた別のものになる。夜の発熱で病院に向かうとき、雨の日に大量のオムツを買いに行くとき、チャイルドシートごと移動できる安心感は、単身期には想像しきれていなかったものだ。娘が1歳を少し過ぎたころ、私たちは家族ごと本土へ移ったが、そのころには「子どもがいる家庭では、車はほとんど必須に近い」と感じるようになっていた。

それでも、子連れの今の感覚をそのまま単身期に持ち込むのは、少し違うようにも思う。正直なところ、車が手に入るなら車がいちばん楽だ。ただ、すぐには手に入らない時期や、予算的に厳しいタイミングもある。そのときは「ない前提の生活」をいったん組み立てておき、タイミングが合ったときに静かに一歩踏み出せばいい。

暮らしは、一度決めたら二度と変えられないものではない。石垣島で車をどう位置づけるかも、「今の手取りと生活費のバランス」と「これからどんな生活の形にしていきたいか」のあいだで、何度か線を引き直していくものだと、私は受け止めている。石垣島の湿った風を思い出すたびに、あの自転車で通った道のりを思い浮かべて、今の自分ならどう決めるだろうと、ときどき考える。

※料金や契約条件は変更されることがあります。最新の内容は、石垣市や関係機関・事業者の公式案内で必ず確認してください。

※本記事は個人の体験に基づく一般的な情報であり、特定の行動や結果を保証するものではありません。医療・法務・金融など専門的な判断が必要な事項については、必ず公的機関や専門家の情報・助言を確認してください。

(筆者注:移住者の視点で執筆/最終更新:2025-12-06)

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